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『父の遺産』(フィリップ・ロス 柴田元幸訳 集英社)

2010.12.01(Wed)

『海外文学』 Comment(0)Trackback(0)

父の遺産父の遺産
(1993/10/05)
フィリップ・ロス

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■このところ、アメリカのユダヤ系作家の本を立て続けに読んだ。フィリップ・ロス『父の遺産』、バーナード・マラマッド『喋る馬』。どちらも柴田元幸訳で、渋い・旨い、そして滋味。ただ私としては、『父の遺産』の方が好みかもしれない。
フィリップ・ロスは、毎年ノーベル文学賞の候補に挙がり、けっこう映画化もされていて、アメリカでは大御所といった地位にあるようだが、日本ではどうなんだろう。どうもアメリカほどの評価は受けていないのではないか。新刊で手に入る本もわずかだし、文庫化もあまりされていないようだ。しかし、今回読んだ『父の遺産』は、父親であるハーマン・ロスの描写がとにかく素晴らしい。こういうのを練達の味わいとでもいうのか、じっくり腰を据えて読みたい作品。


■『父の遺産』は、ノンフィクションタッチの作品で、脳腫瘍を病む八十六歳の父親と、その息子ロスとの二人三脚の闘病記録であると同時に、長年にわたる葛藤から和解に至る父子関係の変容の物語とも読める。
その父親は、無学にして頑固で偏屈、あら探しの名人という欠点の多い人物で、ロスの母親はそのせいで晩年神経衰弱の一歩手前まで追い込まれたという。再婚した相手に対しても同様で、まるで仕事にでも打ち込むように些細な欠点を矯正することに情熱を傾ける。決して、悪意や意地悪で行うのではなく、あくまでも相手のためを思ってのことであるが故にさらにタチが悪い。


「自分が持っている、断念する能力、鉄のような克己心が、実はきわめて希な才能であり、万人に共有されている性質などではないことが、父にはどうしても理解できなかった。」


「馬を川に連れていくことはできても水を飲ませることまではできない、と俗にいう。だが父なら、馬を川に連れていき、かつ水を飲ませることもできると主張しただろう。要は馬に道理がわかるまで、何度もつっつき、つっつき、つっつけばいいのだ。」


しかし、このような人間としての欠点は、アメリカ社会におけるユダヤ人差別と戦い、家族を守り、仕事を勤めあげ、そこそこの地位にまで昇りつめるという点において、大きな武器となった。若い頃のロスが、見逃していたのがこの点で、そのために、父との葛藤・諍いが続いたともいえる。


■ところが、読み進み進めるうちに、そんないやみな父親ハーマンが、実に魅力的でチャーミングに思えてくる。とりわけ、ところどころに出てくるセリフは見事に人間の奥深いところまで透かしてみせる。暮らしてきた街のこと、家族や親戚・つきあった友達のこと、その語り口は名人による落語か、人情咄のような味わいがある。


「いいか、フロリダにはわしと暮らしてもいいと思っている女がゴマンといるんだ。転がりこめばいつだって歓迎してくれるさ。みんな、わしと一緒にいたくて仕方ないんだぞ。」


「ビル、あんたは大人なんだぜ。もう八十六だろうー女性に声をかけるくらいできるだろうが」


「そうそう。ハリー・ローダーの話もするよ。ハリー・ローダーの歌を歌ってやると、エイブも一緒に歌うのさ。そうやって毎日散歩しているんだよ。エイブはハリー・ローダーのファンだったんだ。スコットランド人のコメディアンでな」


■闘病記というと、どうしても涙を誘うものだが、ロスはもちろん単純なお涙頂戴式の物語などには仕立てない。客観的にクールにドライに描いていく。であるからこそ、父ハーマン・ロスの魅力的な強いキャラが浮き上がってくる。それでも、最後のシーンは強烈に胸を打つ。数年前に父を亡くした私は、父親をこんな風に描くことのできたロスが素直に羨ましいと思う。

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