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本のオフ会・『挟み撃ち』(後藤明生・講談社文芸文庫)

2010.10.12(Tue)

『日本文学』 Comment(0)Trackback(0)

挾み撃ち (講談社文芸文庫)挾み撃ち (講談社文芸文庫)
(1998/04/10)
後藤 明生

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■久しぶりの「本のオフ会」、今回は後藤明生の『挟み撃ち』(講談社文芸文庫)。前回の課題図書だった『むらぎも』(中野重治・講談社文芸文庫)と同様、特にストーリーといったものはなく、主人公がかって上京した頃に着用していて、いつのまにかなくなってしまった外套の行方をめぐる探求譚めいた話。主人公は、ある朝、かって着用していた旧陸軍歩兵用の外套のことを思い出す。そして、その日一日を昔住んでいた下宿や、通っていた質屋などを訪ねて、行方不明の外套の消息について情報収集するという、ある意味けったいな小説である。誰が、自分の着ていたものの消息を他人に尋ねたりしますかいな?
どのような経過でその外套が消失したのか、本人自身が記憶喪失しているわけだから、そもそも外套にどれほどの愛着を持っていたのかさえ定かではない。
しかしながら、全く意味のない外套かといえば、もちろんそうではない。


■この外套は、普通の外套とは違って、旧陸軍の歩兵用外套という変わった代物である。かって、軍国少年であった主人公にとって、敗戦とその後の社会の変化は、次のような実感を伴ったものであった。


●「しかし、わたしがそのとき、いわばダメ押しのような形で知らされたのは、わたしの知らないうちに何かが終わった、ということだけではなかった。今度はわたしが知らないうちに、何かがはじまっていたのである。いったい何がはじまったのだろう?」


●「実際、昭和七年にわたしが生まれて以来、とつぜんでなかったことが何かあったでしょうか?いつも何かがとつぜんはじまり、とつぜん終わり、とつぜん変わらなかったでしょうか?あるいは兄さんには、とつぜんではなかったかも知れません。また、兄さん以外の誰かにも、それらはとつぜんではなく、当然であったかも知れません。誰か、とは一体誰でしょう?もちろん、わたし以外の他人です。そのような誰かを、わたしも何人かは知っています。顔も名前も知っているものもあります。その誰かや、兄さんにとっては、当然過ぎるくらい当然であったことが、わたしには「とつぜん」であったわけです。いや、あったばかりではなく、たぶんこの先も、わたしが死ぬまで続くでしょう。」


■つまり、主人公にとって、敗戦とその後の社会の変化は、「とつぜん終わり」「とつぜんはじまる」もので、いつもその流れの埒外におかれてきたという実感のみが残っており、それは「死ぬまで続く」とまで言い切っているのである。戦後民主化された世の中で、旧陸軍歩兵用外套を着用して上京する主人公のいでたちは、自らのちぐはぐな内面を象徴するかのようでもある。
さらに、この作品では、外套という言葉からゴーゴリの「外套」という作品を想起するよう、し向けられてもいる。主人公は、ひたすらゴーゴリのような作品を書きたいと願う作家志望の中年男である。
外套は、よくよく考えてみると、主人公にとって二重の意味でかけがいのないものであった。つまり、社会の変化と祖語を来す自分というものの象徴として、そして、自分にとって最も大切な理想の象徴として。
その大事な外套を「ある日突然」思い出すというのが、この小説のとぼけたところでもあり、自分をも突き放したようなところでもある。


■とまあ、無理にこじつけて書くと、こんな具合にいろいろと想像を巡らすこともできる。しかし、そんなことより、たいした起伏もないこの小説がそれなりに面白いということのほうが、重要である。実際、私以外の参加者も面白いという評価であった。このなにも起こらない小説の面白さというのは一体なんなのだろう?
なにより、逸脱を重ねる饒舌な語りというのが魅力である。それは一つの出来事から過去への追想や連想へと繋げられ、そこに皮肉やユーモアが練り込まれる。ある意味だらだらと同じところをループするような感じなのに、それが不思議と心地いい。さらにいうなら、評論家の蓮實重彦は、この小説のことを「反ナルシズム」の小説と評している。なるほど、言われてみると、独特のグルーブ感を持つこの文体は、ナルシズムとは対極にある位置から語られているような気もする。私小説的な湿り気とは無縁で、ドライに自分を客観視しているような感じ。



■次回「本のオフ会」

●課題図書『停電の夜に』(ジュンパ・ラヒリ 新潮文庫)

●12月4日(土)PM6:30~


停電の夜に (新潮文庫)停電の夜に (新潮文庫)
(2003/02)
ジュンパ ラヒリ

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