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『虐殺器官』(伊藤計劃・ハヤカワ文庫JA)

2010.06.05(Sat)

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虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
(2010/02/10)
伊藤計劃

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■店に来る本好きの学生さんたちから勧められた一冊。タイトルもショッキングだが、内容もタイトル同様スプラッター的要素が結構ある。暗ーい近未来のお話。モスレム原理主義者の手造り核爆弾によってサラエボが消失し、”テロとの戦い”が新たなステージに入った近未来が物語の背景となる。「新たなステージ」がなにを意味しているかというと、テロ対策としての凄まじい情報管理社会の到来。さらには、こんな事態もあっけらかんと描かれていてドキッとさせられる。


「ヒロシマの神話は終わりを告げた。どういう意味かというと、世界の軍事関係者が薄々気づいていながら決しておくびにも出さなかったある事実を、おおっぴらにしてもいい、ということ。つまりそれは、「核兵器」は使えるということだ。」


■ぬわんと、核兵器が「よく管理された」爆弾で、「利用するに足る兵器」であるという認識が、軍人や政治家に行き渡った時代が訪れたというのだ。私世代からすると、例え思考実験レベルでも半分引いてしまうような、身も蓋もない設定ではある。
主人公は、先進国でのテロの減少とともに、増加する発展途上国での内戦と民族紛争を押さえ込むために、紛争や内乱のカギを握るとみられる人物を暗殺するアメリカ情報軍特殊部隊大尉。
そう、日本のSF作品なのに、主人公は若きアメリカ軍人なのだ。彼を通して紛争や内乱を描くことの必然性は、最後まで読むと大いに納得させられる。アメリカというところがミソなのだ。


■この小説の最大の魅力は、紛争や内乱がなぜ21世紀においても止むことなく起こり続けるのか、戦争とは何なのか、このような問いに挑む作者のそれとの格闘といってもいいのではないか。
もちろん、ジョン・ポールという謎の人物が如何なる手法を用いて、虐殺という事態を引き起こすのかというメインの謎解きは魅力的。しかし、現実政治の力学を踏まえつつ、作者なりの想像力を駆使しながら描き出される紛争のメカニズム、その実相はそれなりの説得力がある。
ネタバレになってしまうが、ジョン・ポールを動かしていたのは、アメリカ政府高官で民間の軍事請負業社「ユージン&クルップス」とも関係の深い人物である。
ブッシュ・ネオコン政権が、その中枢に軍需産業に関わりのある人物を多く起用していたことを想起させる。戦争で大もうけできる連中が、政府の中枢を占め「テロとの戦い」を進めていったわけだ。なんとも分かりやすい利権構造。結果としてこのむき出しの利権構造が、世界中の不審をかい、アメリカによる一極支配の崩壊をさらに加速したことは言うまでもない。そしてこの、アメリカにおける軍産複合体を象徴するような人物こそ、「虐殺」の仕掛け人・ジョン・ポールを影で動かしていた張本人だったわけだ。
この政府高官は、全ての企みが公になった後、議会の調査委員会・公聴会でこんな風に述べる。


「海の向こうに、漠然とした戦争が広がっているということ。戦争が、ショッピングモールのBGMのようにサラサラと、どこかから聴こえてくること。二一世紀のわれわれには、そうした世界の有り方が必要だ」


■「リアル・ポリティックス」という言葉がある。世界を戦いのアリーナと見なし、しばしば平和主義を素朴なおとぎ話としてあざ嗤うレトリックとして機能してきた。「リアル・ポリティックス」の拠り所は、戦争や紛争があちこちに存在することだ。たとえポンコツの紛い物であってもそこに戦争があるということが、「リアル・ポリティックス」の根拠となる。そして「リアル・ポリティックス」に依拠しながら、「平和ぼけ」がたたかれ、「安全保障」というものの聖域化と神話化がはかられてきた。「リアル・ポリティックス」神話が有効であることを絶対的に必要とし、そのことから多大の恩恵を被っている人々がいるのである。平和よりも戦争や内乱が喉から手が出るほど欲しい人々。


実のところ、この本はそんなに面白いとは思えなかったのだが、若い読者層に戦争の見方についてオルタナティブな視点を提供してくれているとしたら、それはそれで素晴らしい成果ではないかと思う。




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