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「アムステルダム」(イアン・マキューアン 小山太一訳 新潮文庫)

2010.04.12(Mon)

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アムステルダム (新潮文庫)アムステルダム (新潮文庫)
(2005/07)
イアン・マキューアン

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■イアン・マキューアンのブッカー賞受賞作。実は、この人の作品は、初めて読んだのだが、とてもいい、好みの作家になりそう。ミステリー仕立てのストーリーも楽しめるし、なによりシチュエーションの設定にぐぐっと引きこまれた。物語は、モリーという女性の葬儀の場面から始まる。その場に居合わせる、モリーと関係のあった、四人の男の確執をめぐる後日談といっていいだろう。中でも、中心的に描かれるのが、ヴァーノンとクライブという二人の男である。ライヴァルといっていい四人の中でこの二人は、親友といってもいいくらい仲が良い。この二人が、微妙な感情のもつれから次第に険悪な関係となっていく。
ヴァーノンは、「ザ・ジャッジ」というメジャーな新聞の編集長、クライブは既に名声を確立した音楽家である。ちなみに後の二人は、出版社を経営するモリーの夫ジョージ、そして外務大臣のガーモニー。
とりわけ、高級紙の編集長と著名な音楽家という、HiPな職業に就いている二人の男(ヴァーノンとクライヴ)の日常に興味がそそられる。ありていに言えば、勝ち組、あるいはセレブといってもいい、華やかな職業の現場・舞台裏がたっぷり描写されている。


■わけても、音楽家のクライヴである。私は、ロック・ポップ専門で、クラシック音楽に関しては全く疎いド素人。しかし、作曲家の創造の現場がどのようなものなのか、興味深いところではある。ロックやポップミュージックが3分から5分で完結するシンプルな世界であるのに対し、交響楽ともなれば尺の長さはもちろん、楽器のパートも「2ダース」をくだらない数となる。それに一つずつ音符をつけていくわけだ。そんな気の遠くなるような困難な作業を、作曲家と呼ばれる人々は、一体どのようにこなしているのか?


■クライブは、ミレニアムを迎えるにあたって、「2000年交響楽」という前世紀を回顧した交響楽の作曲を政府から委嘱されている。


○「創造ということは別にしても、交響曲を書くのは肉体的に負担である。演奏時間の一秒一秒が意味するのは、二ダースもの楽器のパートを一音ずつ書き留め、弾きなおし、スコアに修正を加え、また弾き、書き直し、沈黙のうちに座って体内の耳が書きなぐりや書き飛ばしの縦の列を統合してオーケストレーションするのを聴き、その小節が正しくなるまでまた修正し、またピアノを弾いてみるという作業なのだ。」


頂上を目指して忍耐強く一音一音刻んでいく、まるで登山家か職人のように地道に少しずつ前進していく。そして、目指すクライマックスへ、核心部分にまでやっとの思いで辿り着く。ここをどう突破し、乗り越えていくのか?


○「この巨大な音の機関をフィナーレの偉業が本当に始動できる地点まで持ってきたが、それを始めるのは霊感を受けた想像力なくしては不可能だった。―もっとも簡素な形で出現する最後のメロディ、管楽器のソロか、おそらくは第一ヴァイオリンによるありのままの提示。クライヴは核心に達し、その重荷を感じていた。」


インスピレーション、霊感を得るために必要なことはなんだろう?そのまま、スタジオにこもって、こつこつと作業を続けることか?クライヴが、通常用いるのはこんなやり方。


○「不可欠なのは山々と広い空だ。湖水地方がいいだろうか。最高のアイデアは、二十マイルも歩き通して心ここにあらぬ時に不意打ちでやってくるのだ。」


ワーズワースで有名な湖水地方をただただ歩き回ること、全てを忘れて、ひたすら歩き通すこと。インスピレーションを呼び込むには、全てを忘れるということが必要なのだ。そのためにクライヴは、湖水地方という絶景のロケーションに漂泊することを選ぶ。


■この作品は、ストーリー自体もよく練られていて楽しませてくれるのだが、登場人物が移動する空間の思いもよらぬ転換にはっとさせられる。湖水地方もそうだし、最後のオチがつくのは、アムステルダムというこれまた魅力的な都市である。また、主人公の二人(クライヴとヴァーノン)が、私と同じ団塊の世代で、ラブ&ピースのいわゆる「Summer Of Love」を通過した経験がほのめかされていたりして、にやりとさせられる。
ただ、最後の最後、結末部分がある意味、ブラックに決まり過ぎるくらいの決まり方で、逆にちょっと肩すかし食らったような。


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