スポンサーサイト

--.--.--(--)

『スポンサー広告』 Comment-Trackback-
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』 (加藤陽子 朝日出版社)

2010.03.09(Tue)

『政治・社会・経済』 Comment(0)Trackback(0)
それでも、日本人は「戦争」を選んだそれでも、日本人は「戦争」を選んだ
(2009/07/29)
加藤陽子

商品詳細を見る


■神奈川県の私立栄光学園において、二00七年年末から二00八年正月にかけて五日間、「歴史研究会」の生徒たちに行った講議をまとめたもの。このての本としては、異例の10万部を超えるベストセラーということで、もっと斬新な切り口や新たな視点の導入を期待したのだが、極めてオーソドックスな講義で、あまり新味はなかったような。とはいえ、奇をてらったような歴史書ばかりが、書店などでも幅をきかしているこの時代、逆にこのような信頼の置ける実証主義的な研究に基づいた本が、話題を呼びベストセラーとなっていることには、ある意味ほっとさせられる。それだけ、分かりやすくしかも偏りのない立場から、近現代史を描き出した真っ当な本が、多くの人に待ち望まれていたということだろう。


■日本の近現代史というと、軍部の暴走とりわけ陸軍の「問題児」ぶりが必ず指摘される。勿論、事実としてその通りなのだが、では、なぜそこまでの増長を許したのか、またそれが可能であったのか。これには様々な理由が挙げられるだろう。この本で、面白かったのがこんな指摘。


一九二九年から始まった世界恐慌は、そのもっとも深刻な影響を農村にもたらす。ところが、政友会や民政党といった地主や資本家を基盤とした政党は、農民層に冷淡であった。対して、陸軍は「農山漁村の疲弊の救済は最も重要な政策」とし、既成政党にはないスローガンを掲げていた。具体的には、「義務教育費の国庫負担」、「肥料販売の国営化」、「農産物価格の維持」、「耕作権などの借地権保護」など。また、労働関係では、「労働組合法の制定」「適正な労働争議調停機関の設置」などが掲げられていた。今からみても、驚くほど社民的で穏当なもので、今でいうと自民党なんかより、むしろ民主党に近いスタンスではないか。勿論、いざ戦争が始まればこれらの美しいスローガンはうち捨てられ、労働者や農民の生活が真っ先に犠牲になるのだが。
とはいえ陸軍には、これらの施策に見られるような、国家社会主義的指向性やメンタリティがあったようで、既成政党とは違って国民生活の改善について、まがりなりにも具体的な政策プランを持っていた。であるがゆえに、軍部待望論のようなものが国民の中に徐々に熟成されていったとも言える。


■ここまでは、今までも指摘されてきたことだ。しかし、さらに驚いたのが太平洋戦争直前、開戦を急ごうとする首相の東条英機が、天皇を何とか説得しようとして作成した「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」という、戦争を早く終わらせるためのプランの内容。


○「このときすでに戦争をしていたドイツとソ連の間を日本が仲介して独ソ和平を実現させ、ソ連との戦争を中止したドイツの戦力を対イギリス戦に集中させることで、まずイギリスを屈服させることができる、イギリスが屈服すれば、アメリカの継戦への意欲が薄れるだろうから戦争は終わる」


というように、「すべてがドイツ頼み」であり「希望的観測を幾重にも積み重ねた論理」ではあった。それは置いておくにしても、なぜ独ソ戦の停止を日本が仲介することができると考えたか。その理由として、イギリス、アメリカ、オランダ、中国、これらの国は、「自由主義を信望する資本主義国」で、「有産階級や資本家が労働者や農民を搾取している悪い国」、という認識があった。さらに、それに対してソ連やドイツは、


○「ソ連は社会主義国であって資本主義国とは違う、特に経済政策の点では国家による計画経済政策体制をとっているのだから、反自由主義、反資本主義国ということで、日本やドイツと一致点があるのだ、こう日本側は考えようとしていたのだと思います。」


ドイツにシンパシーを感じるのはわかるにしても、ソ連の社会主義も資本主義に比べればまだまし、というほどに国家社会主義的心性に傾いていたというのは、ちょっと驚きであった。


■その他、捕虜の扱いに関するデータで、ドイツ軍の捕虜となったアメリカ兵の死亡率が1.2%だったのに対し、日本軍の捕虜となったアメリカ兵の死亡率が37.3%という数字には驚かされた。また、空前の外交戦といわれた第一次大戦後のパリ講和会議の舞台裏なども興味深かった。豊富なエピソードや人物描写も交えながら、日本が戦争の泥沼に入り込んでいった歴史を、様々な視点に立って考えることで丹念に辿っている。
ただ、生徒たちに投げかける問いや講義の流れが、多分に地政学的というか、ある種ロールプレイイング・ゲーム的なところに傾きがちな気がした。このような思考様式こそ、当時のベスト&ブライテストである軍の参謀たちが、はまった思考の陥弄ではないかという気がする。例えば、それぞれの戦争で亡くなった死者の数が挙げられるが、数字という記号のみに還元されない部分、そこに生きたごく普通の「人間=庶民」の姿というか、その数字の裏にある生身の人間の生活や感情をも具体的にイメージしていくという、そんな工夫や視点がもっとあっても良かったのでは、と思ったりするのだ。


関連記事
トラックバックURL

http://gatemouth8.blog87.fc2.com/tb.php/56-7f4fa2fe

トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
▼ プロフィール

gatemouth

Author:gatemouth
吹田の関大前で、「ゲートマウス」という小さなカフェを営業しています。
「ゲートマウス」は、「本が楽しめる、ミュージック・カフェ」、もしくは「音楽が楽しめる、ブックカフェ」といったイメージの店です。勿論、フードやドリンクも充実。是非お気軽にお立ち寄りください。日曜、祭日は休業。

吹田市千里山東1-11-16
TEL 06-6387-4690
MAIL gatemouth8@gmail.com

▼ 最新記事
▼ 最新コメント
▼ 最新トラックバック
▼ 月別アーカイブ
▼ カテゴリ
▼ FC2カウンター
▼ 検索フォーム
▼ RSSリンクの表示
▼ リンク
▼ ブロとも申請フォーム
▼ QRコード
QRコード

pagetop ↑

Copyright © 2017 gatemouth all rights reserved.
Powered By FC2 blog. Designed by yucaco.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。