スポンサーサイト

--.--.--(--)

『スポンサー広告』 Comment-Trackback-
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
『ヘヴン』(川上未映子 講談社)

2010.02.13(Sat)

『日本文学』 Comment(3)Trackback(1)
ヘヴンヘヴン
(2009/09/02)
川上 未映子

商品詳細を見る


■苛めの問題を扱った話題のベストセラー小説。実家のある近鉄名張駅構内のコンビニにも置いてあったのにはびっくり。最近、同じく苛めを扱った重松清原作の映画『青い鳥』を観たのだが、この小説と同様ハッピーエンドでは終わらない。これといった解決の筋道を提示することなく終わる。苛めの問題の難しさ、根の深さを物語るものだろう。(ちなみに、この映画で阿部寛演ずる吃音の教師は絶品。)
映画『青い鳥』では、苛めを受けた子どもは既に転校していて、新しく赴任してきた教師と、傍観者だった生徒の視点に寄り添って描かれている。一方この小説の場合、徹底して虐められる側の少年と少女の心情に焦点を当てていく。そして、学校が舞台であるにも拘わらず、教師たちの影は全く薄い。子どもの世界のみに焦点が当てられる。このあたり、川上さんの作家としての拘りを強く感じさせるところでもある。


■映画『青い鳥』と対比するとよく分かるのだが、『ヘヴン』は、徹底的に言葉や論理に拘った作品である。これまでの作品は読んだことはないのだが、大阪弁を駆使した独特の文体だという。この作品の文体が以前とは変わったのは、言葉や論理によって苛めの実相に迫ろうとする、作家としての姿勢の現れなのかもしれない。しかし、いくら言葉や論理でそれを解き明かそうとしても、タマネギの皮と同じでめくってもめくっても、出てくるのは変わりばえのしない様相ではないだろうか。苛めは単純に非道な行いであり、犯罪的に人の尊厳を傷つけるものだ。それ以上でも以下でもなく。言葉や論理でそれに迫ることにどれほどの意味があるのだろうか。苛めに意味などなく、ましてや分析対象でも通過儀礼でもない。克服され乗り越えられべき事態でしかない。(元現場にいた者としては、どうしてもそう感じてしまう)
例えば、体育館で破れたバレーボールが主人公の頭にかぶせられ、それをサッカーボール代わりにゲームが行われる。血だらけになった主人公は、手当のために病院に行き、そこで虐めメンバーの中にあって、直接手は下さず少し離れたところから主人公のことを観ている百瀬と遭遇する。「斜視」である主人公が、意を決して百瀬に問いただした時に投げ返されるこんな言葉。


○「君が世界に望む態度で世界が君に接してくれないからって世界に対して文句は言えないだろう?」


ちょっと気障ったらしい言い回しだが、言ってることは、自己中心的な論理のすり替えである。苛めを行う側に論理らしい論理などないのだ。多分そうしたいからする、せずにはいられないからする。身も蓋もなくそれしかないのだ。虐める側の論理を焦点化するのは、ある意味、徒労でしかない。にもかかわらず、このような居直りの論理を白日の下にさらされると、読んでる方はどきっとする。この場面のやりとりは、この本の中で最も印象的なシーンの一つでもある。


■映画『青い鳥』が新鮮なのは、言葉や論理で苛めに分け入ろうとしないところにある。象徴的なのが阿部寛演ずるところの教師が、吃音であるということだ。言葉を流暢に操ることは出来ないが、たどたどしく発するシンプルな言葉には重みがある。むしろ言葉というより、一貫した態度・姿勢のみを武器に子どもたちと接する。無論、反発する子どもたちに怒ったり、説教したりすることはない。
苛めが原因で、引っ越していった子どもの机を教室に戻させ、その机に向かって挨拶したり簡単な言葉かけをするのみである。そこに、ちょっとやそっとで自分たちの行ったことを、忘れてもらっては困るという、子どもたちへの無言のしかし強いメッセージが隠されていることは言うまでもない。この映画には、教師や大人になにが出来るのかという鮮烈なメッセージがある。


■『ヘヴン』は結果として、川上さんの真摯な姿勢は伝わってくるものの、救いのない痛々しい物語、という印象が最後までぬぐえなかった。
主人公とともに、クラスで虐められている女の子「コジマ」が、


○「わたしたちは君の言うとおり………弱いのかもしれない。でも弱いからってそれは悪いことじゃないもの。わたしたちは弱いかもしれないけど、でもこの弱さはとても意味のある弱さだもの。わたしたちはちゃんと知っているもの。なにが大切でなにがだめなことか。」


と語る言葉は、とても美しく胸を打つものだが、あまりにも儚く弱いような気がする。百瀬の語る、現実世界の強者の論理と渡り合えるほどのインパクトは感じられない。徒手空拳で子どもたちの残酷な世界に分け入った作家が、そこから持ち帰ってきたものはなんだったのだろう?


青い鳥 [DVD]青い鳥 [DVD]
(2009/07/24)
阿部 寛本郷奏多

商品詳細を見る





関連記事
トラックバックURL

http://gatemouth8.blog87.fc2.com/tb.php/52-3e549234

トラックバック
管理人の承認後に表示されます
- at 2013.02.08 16:53
コメント
はじめまして。
「ヘヴン」の感想を検索していてこちらへ辿り着きました。
この評論家の「ヘヴン」の解釈を読み、解消しきれなかった部分も腑に落ちるところが多くありましたので、ご紹介したいと思いました。
http://blog.szk.cc/2010/02/12/stigma-world-boys-and-girls/
とおりすがり 2010.02.14 02:32 編集
とおりすがり様
鈴木謙介さんの批評なんですね。なるほど、見事な分析でよくわかりました。ありがとうございました。
gatemouth 2010.02.14 09:37 編集
こんにちは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
藍色 2013.02.08 17:27 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
▼ プロフィール

gatemouth

Author:gatemouth
吹田の関大前で、「ゲートマウス」という小さなカフェを営業しています。
「ゲートマウス」は、「本が楽しめる、ミュージック・カフェ」、もしくは「音楽が楽しめる、ブックカフェ」といったイメージの店です。勿論、フードやドリンクも充実。是非お気軽にお立ち寄りください。日曜、祭日は休業。

吹田市千里山東1-11-16
TEL 06-6387-4690
MAIL gatemouth8@gmail.com

▼ 最新記事
▼ 最新コメント
▼ 最新トラックバック
▼ 月別アーカイブ
▼ カテゴリ
▼ FC2カウンター
▼ 検索フォーム
▼ RSSリンクの表示
▼ リンク
▼ ブロとも申請フォーム
▼ QRコード
QRコード

pagetop ↑

Copyright © 2017 gatemouth all rights reserved.
Powered By FC2 blog. Designed by yucaco.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。