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終の住処(磯崎憲一郎・新潮社)

2010.02.04(Thu)

『日本文学』 Comment(0)Trackback(0)
終の住処終の住処
(2009/07/24)
磯崎 憲一郎

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■「日本のマジック・リアリズム小説」という、先入観が強かったためか、どうも肩すかしを食らったような妙な気分で読み終えてしまった。それにしても、どこでこの「日本のマジック・リアリズム小説」なんていうコピーが自分の中に刷り込まれたのだろう?
磯崎さんに小説を書くことを進めたという、作家の保坂和志さんが、「素晴らしい身体性を持ったボルヘス」と評されたことが、どこかで引っかかっていたのだろうか。はたまた「ガルシア=マルケスを思わせる感覚で、日常の細部に宿る不可思議をあくまでリアルに描きだす。」という新潮社のコピーによるものなのか?
私の場合、「日本のマジック・リアリズム小説」というと、まず思い浮かべるのが、中上建次『千年の愉楽』であり伊井直行『濁った激流にかかる橋』で、どちらも 「日本のマジック・リアリズム小説」というのにふさわしい素晴らしい小説だった。あのイメージが強すぎたということもあるのかもしれない。


■しかし、冷静に考えてみると、このような先入観抜きで、この小説と出会えたとしたら、もっと新鮮な驚きを持つことが出来たのかもしれない。というのも、ところどころ挿入されてどきっとさせられる、それこそ「マジック・リアリズム的表現」が、それなりに効を湊しているようにも思えるからだ。例えばこんな描写。


●「ところがとつぜん、空から重い音の固まりが降ってきたのだ。滝だ!その瞬間までの静寂を覆す、両耳を覆い尽くす爆音が、彼の頭上に轟いた。この空に、いま、滝が落ちている!」


●「この数ヶ月というもの、月は満月のままだった」


●「次に妻が彼と話したの、それから十一年後だった。」



これが、主人公の単純で岩盤のように強固な日常生活に、ひびを入れるようなアクセントになっていて、不穏な空気と不安定な揺らぎを伝え、ある種、インパクトのある異化作用をもたらしている、とは思う。
しかし、これを持って、ラテンアメリカ文学の巨匠たちの名前を持ち出すのは、ちょっと違う気がする。ラテン・アメリカ文学が革新的だったのは、死んだと思われていた「物語」を、別の方向から復権させたことにあるのではないか。しかし、この本の著者の創作方法は、「物語」を構想するというより、「私小説」をフェイクすることにあるのではないかと思われてしかたがない。基本的なスタイルが、そもそも全く異なっているように思うのだ。
また、同じ日常を描くにしろ家庭生活ではなく、自ら勤める巨大企業の現場を舞台に、カフカのような不条理な展開を構想していった方がおもしろいのではないか。この小説でも、いくつかのエピソードが挿入されてはいるが。


■話は変わるが、この小説を読んでいてつくづく思うのは、芥川賞ばかりがもてはやされる日本の文学賞のあり方と、メディアのお祭り的な取り上げ方への違和感だ。芥川賞は、たかだか、新人の登竜門である。どんな世界でも、新人賞が他を圧する取り上げ方をされる、などということは考えられない。キャリアのある実力派の作家が力のある作品を書き、それに対して贈られる賞こそが、真に権威のある賞なのだろうし、そういうものにこそもっと光が当てられるべきだと思う。
早い話が、先日発表されたグラミー賞にしても、これから発表されるアカデミー賞にしても、新人賞がハイライトなんていう事態はあり得ない。ブッカー賞にしても、ピューリッツァー賞にしても、勿論ノーベル文学賞にしても同様。


■このブログでは、お馴染みのバルガス・リョサは、『若い小説家に宛てた手紙』でこんなことを述べている。


●「しかし小説家の場合、才能、天分といったものは気の遠くなるほど長い時間、つまり何年もの間ねばり強く修練を積んではじめて身につくものなのです。早熟の小説家というものは存在しません。称賛に値する偉大な小説家たちも作家になりたての頃は、例外なく三文文士でしかなく、信念を持って辛抱強く努力したおかげでその才能が花開いたのです。」


ことほど左様に小説を書くということは、困難な営為なのではないか。それを、日本のように芥川賞の発表が、文学界唯一のビッグ・イヴェントとなっている現状は、どう考えてもいびつとではないか.




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