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飛魂(多和田葉子 講談社文芸文庫)

2013.03.18(Mon)

『日本文学』 Comment(0)Trackback(0)

飛魂 (講談社文芸文庫)飛魂 (講談社文芸文庫)
(2012/11/10)
多和田 葉子

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■以前読んだ、『現代日本の小説』 (尾崎真理子・ちくまプリマー新書)という本で、この作品が大絶賛されており(「この作品こそ、九〇年代日本文学の到達点を示す、隠れた傑作だろう」)、ずっと読みたいと思っていた。長く、絶版状態だったようだが、ようやく去年暮れに講談社文芸文庫から無事再版された。
確かに、これは傑作だと思う。実験的・前衛的な作風でありながら、軽やかで清々しく、小説として楽しく読ませてくれる。
多和田さんがここで試みているのは、ある種の言語実験による創作なのだが、とりわけターゲットにしているのは漢字である。巻末の「著者から読者へ」でこんな風に述べている。

◇「漢字を二つ組み合わせて、あるイメージを創り出すという半ば絵を描くような作業。声には出さないで、沈黙の中にあらわれる映像を楽しむ。例えば「梨」という字と「水」という字を組み合わせた時に生まれる水のしたたるような新鮮な歯ごたえ、光を含んだ限りなく白に近い緑色が赤らむ感じ、秋のひんやりした空気、成熟に向かうほんのりした甘さなど」

■ちなみに「梨水」というのは、この作品の話者である主人公の名前。他に登場人物の名を上げると、紅石、指姫、朝鈴、さらに軟炭、煙火、亀鏡など漢字二字で鮮やかにイメージを喚起させられるものが多い。その他、天候などの自然現象や、心霊現象、生物、食物、ファッションまで、能う限り、漢字を使った造語がちりばめられている。
このような、造語によるイメージ・リズムだけでも相当に新鮮な感覚に包まれるのだが、なにより、この新たな文体とストーリーとのマッチングが非常にいい。この言葉と文体がなかったら紡がれることのなかったストーリーといったらいいのか。
とはいえ、リアリズムから遠く離れた作品であるがゆえにそれを説明するのは難しいのだが、とりあえず、舞台設定は、こんな感じ。

◇「虎を求める心は、遠い昔からあったようだ。数百年前には、森林の奥深く住むと言われる亀鏡という名の虎使いの女を訪ねて、家を捨て、森林に入っていく若い女たちの数多くいたことが、寺院の記録などに記されている。虎使いの家のあったと言われる場所に今は寄宿学校ができている。やはり亀鏡という名前の女性が書の師として名を響かせている。そして数百年前と同じように、家を捨てて、その寄宿学校に向かう若い女たちがいる。梨水もある日、荷物をまとめて家を出た。梨水とは私の名前である」

■まるで、インドの著名なグルたちのアシュラムを想起させる。つまり、ここでの亀鏡をリーダーとする「寄宿学校」という共同体は、導師の下で覚醒を求め精神修養する道場、というイメージにかなり近いかもしれない。もっとも、グルのような存在である亀鏡は、時に母親のような母性あふれる存在として、時にエロチックな一人の女として、又あるときは、だだっ子のような幼児性を併せ持つ存在として描かれており、本物のグルのように決して高潔なだけの存在ではない。
この作品の魅力は、その寄宿学校での講義や生活、そして一つの事件の顛末を独自の文体と言語で描いていくところにあるが、わけても、話者であり主人公でもある梨水の成長・変化していく件は秀逸で印象的だ。
元々梨水は、できのよい生徒ではなく、どちらかというと、劣等生であった。

◇「わたしは、幼児館でも若年学校でも、書の運びも朗読の声響も鈍く、教師に褒められたことは一度もなく、特に弁論が苦手で、敵を舌で打ちのめすことなど思いもよらなかった」

そんな梨水だから、亀鏡の講義でも引っ込み思案であったのが、音読に指名され読み続けるうちに、難解な書の内容に近づくことができるようになる。さらに、その音読を聴いている聴衆にも呪術的な力を及ぼすことに気づく。

◇「わたしの声のよろめきに合わせて、聴衆の身体が右へ左へと揺れ動いているのに気がついた。聴衆を動かしているのは、わたしの喉から出る声そのものではなく、何か透明な袋のようなもの、宙に浮かびあがり、お互いに戯れ合いながら、人々を巻き込んでいく霊のようなものだった」

■ここで面白いのは、研究生たちが「音読」という身体を通した活動によって、「書」を学ぶ楽しさに目覚める梨水のようなタイプと、目読や討論という理知的な活動のみに価値を見いだすタイプに別れてしまうことだ。梨水のようなタイプは少数派である。
そしてある出来事がきっかけとなり、梨水は「学弱者」(低学力者)というレッテルを貼られてしまう。このたりは、現在の学校教育が抱いえている問題とも繋がっているようで面白い。
その後、寄宿舎を揺るがす騒動が持ち上がるのだが、この間の梨水の心の揺れや行動は、本当に瑞々しいタッチで描かれている。

■この作品は、後々、無性に読み返したくなるような作品になるだろう。はやりの言葉で言うと、その独特の「世界観」に、もう一度じっくりと浸りたくなるような、そんな予感が確かにするのである。「世界観」などというご大仰な内実を持った作品が、そうそうあるものではないだろう。しかし、この作品は、「世界観」と呼ぶに相応しい、孤高の独自性を保ちながらひっそりと佇んでいるように思える。









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