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快楽としての読書[海外編]  丸谷才一・ちくま文庫

2013.03.12(Tue)

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快楽としての読書 海外篇 (ちくま文庫)快楽としての読書 海外篇 (ちくま文庫)
(2012/05/09)
丸谷 才一

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■丸谷さんは、書評というものを心から愛し、書評を書き続けた人だった。若い頃からイギリスの書評に親しみ、九〇年代には毎日新聞の書評欄の大改革まで自らの手で断行した。将来、丸谷才一全集が編まれることになれば、きっと書評集だけで何巻かに纏められることになるだろう。実際、丸谷さんのように深い学識と膨大な読書量を持つ人にとっては、書評という仕事は、絶好の自己表現の場であったに違いない。なにより、楽しんで書かれているようだし、それに、文章のイキがいい(大家に向かってこんなことを言うのもなんだが)。
この本では、書評という仕事について次のように述べている。

◇「しかし紹介とか評価とかよりももっと次元の高い機能もある。それは対象である新刊本をきっかけにして見識と趣味を披露し、知性を刺激し、あはよくば生きる力を更新することである」

■書評の機能とは、単に本の紹介や評価にとどまらず、書評者の「趣味」や「見識」を披露し、読者の「知性を刺激」しなければならないと言うのである。これだけでも、かなり難しいハードルだ。さらに続けて。

◇「読者は、究極的にはその批評性の有無によってこの書評者が信用できるかどうかを判断するのだ。この場合一冊の新刊書をひもといて文明の動向を占ひ、一人の著者の資質と力量を判定しながら世界を眺望するといふ、話の構への大きさが要求されるのは当然だらう」

■書評を通じて、「文明の動向を占ひ」かつ「世界を眺望する」のである、と。こうなると、書評を通じての文明批評、あるいは社会批評にまで行き着く。これはもう、私のやっているような素人書評とは次元の違う話である。しかし、この本を読むと、書評に要求されるこれらの無理難題とも思える課題を、きちんと視野に入れられているのがわかる。
掲載されているのは、1970年代から2000年代初頭まで、ざっと40年間にわたる書評集だ。主に「週刊朝日」と「毎日新聞」に掲載されたものが多い。書評というフィールドにおける、丸谷作品のベストなアンソロジーである。

■40年にもわたる長いスパンでの書評集だから、この間の日本における海外文学の評価や受容状況が、最高の書評家の目を通して、ひととおり見渡せる。
マルケスやリョサなどのラテンアメリカ勢、カーヴァーやオースターなどのアメリカ文学。イシグロやバージェス、マキューアンなどのイギリス文学などが押さえられているのは当然だが、他に、歴史書や聖書関連、さらに思想・哲学まで、実に幅広く取り上げられている。

■そんななかで、私がもっとも気になった一冊がある。リチャード・ヒューズという人が書いた『ジャマイカの烈風』。なにしろ、丸谷さんのこの本への絶賛ぶりが凄い。まず、カフカの小説を引き合いに出し、その完成度や後世への影響力からして、「現代の古典」という位置に限りなく近いとしながらも、次のように述べてそれを退ける。

◇「古典がどうしても持ってゐなければならぬ、一種超越的な晴朗さを欠いてゐるのである」

あのカフカでさえ「現代の古典」たる資格には欠ける、というのである。その上で、この『ジャマイカの烈風』をこう評している。

◇「『ジャマイの烈風』は「現代の古典」と呼ぶにふさわしい数少ない長編小説の一つである。その完成度の高さは比類がない。その影響は、現代文学史のさまざまの地点に見ることができる(たとえばグレアム・グリーン)。そしてこの作品の透明で悲しい味わひについては、適切な形容の言葉を持たないことをたいていの批評家が嘆くに違いない」

「ヒューズはこの長編小説で、一群の少児たちを極限状況におくことによって、人間の原型としての子供をじつに見事に示してくれる。その際の小説技巧の巧妙さは舌を巻くしかないほどで、卑小な日常性のなかでの壮大な悲劇といふ小説本来の機能は、『ジャマイカの烈風』において模範的に提示されてゐると言ってよからう。」

■と、この書評集の中でも、ここまでの大絶賛はこの作品以外にないのでは、と思わせるほどだ。なにしろ、カフカを退けてまでこの作品を評価しているのである。小説の目利きである丸谷さんにとっても、相当リスクが伴い、それだけに、覚悟と気合いの入った書評にならざるを得なかったのでは、と思わせる。
私は、リチャード・ヒューズの名も、『ジャマイカの烈風』という作品もこの本で初めて知った。
それもそのはずで、一九二九年に書かれたこの作品は、一九七〇年になって初めて日本では翻訳・刊行された。その後、二〇〇三年に晶文社の「必読系!ヤングアダルト」というシリーズに加えられ、再刊されている。が、現在は、品切れ状態で、古本を漁るしかない。私は、アマゾンに出品されていた古本を思わずクリックした。しかし、ヒューズのその他の作品は、全く翻訳されていないようだ。
それにしても、隠れた傑作というのはあるもんだ、とつくづく思う。私にとっては、こういう新たな本との出会いが、書評を読む最大の魅力である。



ジャマイカの烈風 (必読系!ヤングアダルト)ジャマイカの烈風 (必読系!ヤングアダルト)
(2003/09/26)
リチャード・ヒューズ

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