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「蔭の棲みか」(玄月 文春文庫)

2011.05.30(Mon)

『日本文学』 Comment(0)Trackback(0)

蔭の棲みか (文春文庫)蔭の棲みか (文春文庫)
(2003/01)
玄月

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■今年の二月、この本の著者・玄月さんがミナミにバー・リズールをオープンしたという。本がたくさん置いてあって、本好きがたまるバー。作家自身による朗読会などのイベントも企画しているとのこと。文壇バーっぽいテイストもありそうだ。なんとも、魅力的。しかも、バーテンとして働くことになったのが、本のオフ会にも参加してくれていたM君。是非ともお伺いしたいものと思っていたのだが、なにしろ、まだ玄月さんの著作を読んでいなかった。行くにしても、とにかく芥川賞受賞作『蔭の棲みか』だけは、読んでおきたいと思い、今回の読書会のテクストに。


■主人公のソバンは、幼い頃、親に連れられ日本に渡ってきて以来、大阪東部にある朝鮮人集落に住み続けている七十を過ぎた独居老人である。戦時中、徴兵され機銃掃射に遇い右手首を失う。戦後、集落に戻って結婚し子供ができる。しかし、ひとり息子は、過激な学生運動に関わり、リンチに遇って死んでいく。妻はその二年後、働いていた工場の裁断機で腕を付け根から断ち切られ失血死する。以来、妻が働いていた工場の持ち主永山から、補償として支給される食事と月二万の小遣でソバンは生きてきた。
大事なものを次々と失うだけの人生。普通なら、「恨」と呼ばれるような感情をため込んでいてもおかしくはない。しかし、作家が描く悲劇的な境遇の老人は、軽く、飄々としていて、愛らしささえ感じる。それは、集落とそれに連なる人々の、彼に対するまなざしの優しさに根ざしているのかもしれない。かっては、集落に住みつつも、豊かになるにつれ外へ出て行った在日の人たち。その、子どもたちが作る、草野球チーム「マッドキル」の若者たちとの交流。亡くなったひとり息子の友人で、開業医の高本。独居老人を訪問するヴォランティアの美しい中年婦人、佐伯さん。これらの人々との交流は、ほんのりしたユーモアと暖かさにくるまれていて、この作品の読みどころの一つになっている。


■それと対照的に、不穏な暴力の影も通奏低音として流れている。その代表が、貧しかった集落に小さな靴工場を建て、集落の暮らしぶりを変えた永山である。靴工場は、人々の生活を引き上げることにもなったが、ボスとして君臨する永山に対し、人々は「集落はやつのもの」という憤りとも諦めともつかない思いを刻み込んだ。この永山のイメージは、中上健次や梁 石日の作品に出てくる、インパクトの強いマッチョで暴力的な登場人物たちを想起させる。
もう一つは、ゆとりができて集落を出て行った在日朝鮮人に変って、住み着くようになった不法滞在の中国人たちである。集落は、永山の工場で低賃金で働くために雇われた中国人たちの宿舎と化していく。集落はそもそも、国家や公とは無縁に存在してきた。そこは、法による保護や保障とは無縁のコミュニティである。ルールを破るものには、彼らなりの流儀で制裁が加えられた。コミュニティを維持するための掟のようなものだ。ルールを破ったものに対する、暴力的な制裁は土地の記憶として、人々の間に残り影を落としている。


■また、軍人として戦争に徴用され、右腕を失ったにも関わらず、国からはなんの補償も受けられなかったことに対する、ソバンの思いも重要なモチーフになっている。最終的に、ソバンは、国家からの補償によって生きて来なかったがゆえに、集落のつながりのみで生きてきた自分を見出す。それに対し、高本は、こう語る。


◇「わしらの世代以降ではつけられんこの国へのけじめを、あんたらにつけてもらいたいんや。わしらは、いやわしは、あまりに無力や。そこそこの金と社会的地位を維持するだけで満足して、心もからだも弛緩しきっとる。」


■考えてみると、この小説が書かれた、90年代以降、社会は急激に変った。一方で、韓流ブームが高まり、日韓の垣根は一気に取り払われたようにも思うが、反面、小泉以降の急激な日本社会の右傾化に伴い、在日の人々を標的にした差別的なヘイト・スピーチを堂々と繰り返すような団体も現われている。在日の人たちは常に日本社会の荒波に揺れ動かされ続けてきた。この小説が書かれたのは、そんな荒波のなかで、一瞬訪れた凪のような時代だったのではないだろうか。
そのことが、高本に「心もからだも弛緩しきっとる」という台詞をつぶやかせているように思う。
不穏な空気と混じりながらも、凪のような時代の優しさやユーモア、ぬくもりは十分伝わってくる。ただ、現在、この時代、再び不穏な空気が漂いはじめている。そのような状況と対峙した小説を是非とも届けて欲しい。

<次回「本のオフ会」>

■6月18日(土) PM6:30~

■テクスト『ストリートの思想~転換期として1990年代~』(毛利嘉孝 NHKブックス)


一杯飲みながらの気楽な会です、お気軽にご参加を。



ストリートの思想―転換期としての1990年代 (NHKブックス)ストリートの思想―転換期としての1990年代 (NHKブックス)
(2009/07)
毛利 嘉孝

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吹田の関大前で、「ゲートマウス」という小さなカフェを営業しています。
「ゲートマウス」は、「本が楽しめる、ミュージック・カフェ」、もしくは「音楽が楽しめる、ブックカフェ」といったイメージの店です。勿論、フードやドリンクも充実。是非お気軽にお立ち寄りください。日曜、祭日は休業。

吹田市千里山東1-11-16
TEL 06-6387-4690
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