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『世界終末戦争』(マリオ・バルガス・リョサ 旦敬介訳 新潮社)

2010.10.27(Wed)

『海外文学』 Comment(0)Trackback(0)
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■つい先日ノーベル文学賞を受賞した、リョサの代表作「世界終末戦争」を読み終えた。二段組み700ページという長大なヴォリュームの作品だが、いったん読み始めるとページを繰る手が止まらない。最初から最後までだれることなく、一気に読み切ってしまう。本を読むことの快楽を細胞の隅々にまで浸透させてくれるような作品だ。おかげでこの二週間、寝不足の日々が続いた。
リョサを読むなら、これはもう絶対はずせない作品だろう。今、手に入れやすい『緑の家』も悪くはないが、技法的な実験が際立っており、決して読みやすいとは言えない。それからすると、この『世界終末戦争』は鉄板。それほど凝った技法は使われておらず、素直な表現と、なにより物語の展開でぐいぐい引っ張っていってくれる。ヴォリュームの問題はあるにしても、むしろリョサ入門の作品としてはこの『世界終末戦争』か、もしくは『楽園への道』がオススメ。どちらも面白い、極上のエンタメ小説と文学が高いレベルで統合されたような、そんな高揚感のある作品だ。
ただし『世界終末戦争』の場合、古本価格で一万円以上している現状では、とても手は出せない。これはもう、リョサの受賞を期に、文庫での復刊を望むしかない。多くの人が、この傑作に触れうるような環境を是非とも作ってもらいたいものだ。


■ペルー出身の作家であるリョサがこの作品で描いているのは、ブラジル内陸部の奥地で十九世紀末に実際に起こったカヌードスの叛乱の全貌である。カヌードスの叛乱とはなにか。それは、貧しい辺境の地、セルタンゥ地方カヌードスの町で起こった、原始キリスト教的宗教コミューンと生まれたばかりの共和制国家ブラジルとの真正面からの激突であった。
新政府の打ち出す、近代化政策がキリストの教えに背くものととらえた放浪の説教師コンセリェイロは、自分たちの信ずる教理に従って、カヌードスの町に平和的な宗教コミューンを建設する。、そこに、ブラジル社会から取り残された貧しい流浪の民が続々と流入してくる。入植当初、五〇〇人ほどが暮らすささやかな町だったカヌードスは、わずか四~五年後には、五〇〇〇世帯三万人が暮らす、ちょっとした地方都市レベルにまで成長していた。
新政府は、コンセリェイロたちの活動を、政治的な反対勢力である王政復古派と結託した動きととらえ、弾圧に乗り出していく。近代国家の威信をかけた最新の軍隊組織と、元盗賊の信者らによって指導され、鉈や匕首、ラッパ銃といったアナクロな武器で武装するしかなかった宗教集団による戦いだった。
前半は、コンセリェイロと呼ばれる聖者の遍歴とその中で出会う、様々な出自と来歴を持つ信徒たちのエピソード、そして、当時のブラジルの社会的・政治的背景が描かれていく。


■私は、これを読んでいて白土三平の『カムイ伝』を思い出した。というのも、中心には、コンセリェイロという教団の主宰者がいるにしても、それより、この戦いに関わった様々な階層の人たちが、それぞれ個性豊かに描き込まれているからだ。一つの人物や立場から事件を見るのではなく、階級や階層を横断した多数の人物の視点を取り込んでいくという。まさに、ポリフォニックな描写なのである。王党派の大地主カナブラーヴァ男爵、共和国政府軍の英雄モレイラ・セザル大佐、ヨーロッパから流れてきた革命家ガリレオ・ガル、従軍記者としてセザルに同行しカヌードスの戦いの一部始終をつぶさに見ることになる近眼の記者等々。さらに、信徒たちでは、敬虔な少年信者ベアチーニョ、人殺しの逃亡奴隷ジョアン・グランジ、残酷な盗賊ジョアン・アバージや顔に大きな傷跡を持つパジェゥ等々。
様々な人物の生い立ちや視点が入ることによって、当時のブラジル社会全体の状況や、歴史的な背景が浮き上がってくる。しかも、どの人物もそれぞれ強烈なエピソードを持っており魅力的だ。このように多数の人物の視点や思考が入り乱れることで、カヌードスの戦いは悲惨な結末を迎えるのだが、読後感としては、不思議と冷静で客観的かつ重層的な視点が残る。




■カヌードスの戦いは、その後、様々な人にインスピレーションを与えたようだ。ブラジルのシネマ・ノーヴォを代表する監督グラウベル・ロシャの作品や、さらにそのロシャに影響を受けた、カエターノ・ヴェローゾなどのトロピカリア運動を進めたミュージシャンたち。カヌードスのあるバイア州は、ブラジル音楽の革新者たちが多く生まれた土地でもある。カエターノは私も大好きなミュージシャンで、その彼とこんなところで繋がっているとは思いもしなかった。
さて、年明けには作品社から刊行されるという『チボの狂宴』がますます楽しみになってきた。
https://www.tssplaza.co.jp/sakuhinsha/book/kinkan-info.htm


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